実践プログラム3

サニテーション価値連鎖の提案

─地域のヒトによりそうサニテーションのデザイン
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研究プロジェクトについて

ヒトのし尿を扱うサニテーションは世界の課題です。課題を抱える開発途上国と日本を対象に、個人の価値観、地域のし尿に対する規範・文化・伝統・気候・経済とサニテーションの関係を知り、先進国と開発途上国の共通の目標として、「サニテーション価値連鎖」を提案します。「サニテーションは『価値』の創造である。単なる技術ではなく、ヒトや地域の価値連鎖そのものである」という視点を基本にします。

なぜこの研究をするのか

ヒトが排出するし尿や排水を扱うサニテーションは公衆衛生、環境・生態系管理に加え、資源問題を左右する重要な要素です。世界では開発途上国の住民を中心に約24億人が適切なサニテーションにアクセスできていません(2015年、国連レポート)。また、これらの開発途上国では5歳以下の死亡率が高く、貧困の問題も生じており、今後さらなる人口増加が予想されています。一方、日本等の先進国では、低経済成長・人口減少・高齢化社会の進展により下水道などのインフラの維持が難しくなると予想されています。2050年の世界人口は約100億人と推定されています。「人の健康・環境負荷低減・食糧増産・資源管理の関係性の中で、100億人から排出されるし尿・排水をどう扱えばよいか?」この問の答えが必要とされています。

どこで何をしているのか

〈プロジェクトで設定している仮説〉

この問の答えを得るために、3つの仮説を用意しています。

  1. 仮説①:
  2. 住民は地域特有の文化、価値と社会経済条件、環境条件の中で暮らしている。現状のサニテーション問題は、住民やその集団の価値観とサニテーションの提供する価値が適合していないことに起因している。

  3. 仮説②:
  4. 一方、サニテーションの技術はさまざまな関連主体、社会制度、ヒトのし尿等に対する規範等によって成り立っている。このような技術の存立条件と地域の状況が適合しない場合があり、このことが問題を深刻にしている。

  5. 仮説③:
  6. プロジェクトで提案するサニテーション価値連鎖が解決策となる。提案しているアプローチ:(1)ヒト・コミュニティの価値体系を知り、この価値体系の中にサニテーションのしくみを組み込む。(2)関連する各主体の価値体系とお互いの親和性を知り、価値の連鎖を共創する。(3)価値連鎖をいかす技術を用意する。

〈プロジェクトで設定している課題〉

これらの仮説の検証のために、4つの課題を設定しています。

  1. 課題①:
  2. 現地調査により、住民やコミュニティの価値観、し尿に対する規範を知り、サニテーションを住民の生活との関係でとらえなおす。

  3. 課題②:
  4. 現在の多様なサニテーション技術をその存立条件の関係からとらえなおす。そして、サニテーションが私たちに与えてくれる価値を再評価する。また、住民の価値観や地域の条件を理解した上で、価値連鎖をいかす新しいサニテーション技術を開発する。

  5. 課題③:
  6. 具体的な場所を選定してサニテーション価値連鎖の提案と共創の実証をおこなう。

  7. 課題④:
  8. 価値連鎖共創のためには、研究成果を多様な関係者に伝える努力が必要である。地球研の資源と機関連携をいかし、多様な媒体による成果表現・発信法を開発する。

〈現地調査などをおこなっているフィールド〉

サニテーションのしくみが普及していない開発途上の国の都市部(ザンビア、インドネシア、ブルキナファソ)と農村部(ブルキナファソ、インドネシア)で調査をおこなっています。日本国内では、高齢化・人口減少社会の例として、北海道の石狩川流域の農村部でも研究をしています。

〈プロジェクトの研究チーム〉

北海道大学との機関連携のもとでおこなっています。公衆衛生・保健学、衛生工学、農学、経済学、人類学の専門家でチームを作っています。また、ザンビア大学、インドネシア科学院、ブルキナファソ・ローカルNGO(AJPEE)と協定を結んでいます。

〈プロジェクトのサニテーションの考え方〉
図1: Co-creationからみた3つの価値のコンセプト図(片岡原図)

図1: Co-creationからみた3つの価値のコンセプト図(片岡原図)

多分野の専門家がかかわることで、サニテーションの課題を物質的な循環だけではなく、健康、物質、社会−文化のそれぞれにおけるサニテーションの価値の総体として捉える理解の枠組みをつくりました(図1)。そのなかでは、社会と文化に埋め込まれた価値観を掘り起こし、サニテーションに関係するアクターとの協調による共創をおこないます。その結果としてつくりあげられるサニテーション価値連鎖のシステムが、コミュニティ内での健康状態を向上していくというプロセスを構想しています。

これまでにわかったこと

図2: どのようなルートで病原菌が体に入るか(バングラディシュでの測定例.Harada et al. (2017) Fecal exposure analysis and E. coli pathotyping: a case study of a Bangladeshi slum, International Symposium on Green Technology for Value Chains 2017, 23-24 October, 2017, Balai Kartini, Jakarta.)

図2: どのようなルートで病原菌が体に入るか(バングラディシュでの測定例.Harada et al. (2017) Fecal exposure analysis and E. coli pathotyping: a case study of a Bangladeshi slum, International Symposium on Green Technology for Value Chains 2017, 23-24 October, 2017, Balai Kartini, Jakarta.)

  1. (1)
  2. 資源を回収するためのトイレ:都市部のし尿を肥料として価値あるものにして農村で利用する価値連鎖に必要な、「尿を濃縮できるトイレ」や「リン肥料を作ることができるトイレ」の技術を開発しました。

  3. (2)
  4. 病原菌の伝搬を追跡する:病原菌はさまざまなルートを経て伝搬しています。この伝搬のルートを分子生物学の手法で分析しました。バングラディシュで調査した例では、水浴び時に病原菌に感染しているということ、水を飲む場合、コップの汚染が重要であることがわかりました(図2)。

  5. (3)
  6. 「子ども・青年クラブ」の創設とアクションリサーチ:ザンビアで、Dziko Langa(「わたしのコミュニティ」)というグループを設立し、アクションリサーチをおこないました。メンバーの若者たちが、サニテーションに関連するコミュニティの問題と思う情景を写真に撮り、その写真についてのコメントを記述する「フォトボイス」という手法を実施し、発表会を開催しました。コミュニティのサニテーション課題を明らかにするだけでなく、問題をコミュニティの住民と共有することができました。

伝えたいこと

私たちの研究は、「将来のサニテーションのしくみをどのようにしていけばよいか?」そして「このしくみを支える技術はどのようなものになるか?」の答えを提案できると考えています。この提案は、従来の社会インフラを計画・維持していく考え方を変えることができるのではないかとも考えています。加えて、これまでのサニテーションの技術は「し尿や排水は廃棄物であり、処理しなければならない」という考えを基礎としてきました。私たちはこの技術の考えを「し尿や排水は個人の貴重な財産であり、技術はこの財産の価値を高めること」へと転換することをめざしています。

 

特筆すべき事項

  1. (1)
  2. 国際学術雑誌“Sanitation Value Chain”(ISSN: 2432-5066)第2号を刊行し、学問分野を越えた多分野の論文を編集・出版しています(図3)。Springer から英語単行書(Resources OrientedAgro-Sanitation Systems: ConceptsBusiness Model and Technologies)を出版しました。

  3. (2)
  4. ザンビアでは、現地の子ども・青年グループと共同でおこなったアクションリサーチの成果の展示会を実施し、地元住民や地元選出国会議員が来訪しました。また、首都ルサカで開催されたザンビア水フォーラム(ZAWAFE2018)ではブースを設置し、副大統領が視察に訪れるなど、好評を博しました(写真1)。さらに、サニテーションフェスティバルをルサカ市と共同で開催し、初日は市長とともに街頭パレードをおこないました。

  5. (3)
  6. ブルキナファソの都市と農村で、し尿の汲み取りを生業とする人たちから聞き取り調査をおこない、都市では人口急増とともに汲み取りの需要が急速に高まり、農村では汲み取りの独自の手法を発展させてきたことがわかりました。

図3:“ Sanitation Value Chain”第2号(Vol.2 No.1)

図3:“ Sanitation Value Chain”第2号(Vol.2 No.1)

写真1: ザンビアでのアクションリサーチ:ZAWAFE2018のDziko Langaブースにはザンビアの副大統領も来訪(Photo by Nyambe)

写真1: ザンビアでのアクションリサーチ:ZAWAFE2018のDziko Langaブースにはザンビアの副大統領も来訪(Photo by Nyambe)

集合写真

メンバー

プロジェクトリーダー

氏名所属
山内 太郎総合地球環境学研究所教授/北海道大学大学院保健科学研究院教授

アジア、オセアニア、アフリカの農漁村、都市、狩猟採集社会において人々のライフスタイルと栄養・健康・QOLについて住民目線のフィールド調査をおこなっています。

サブリーダー

氏名所属
船水 尚行室蘭工業大学理事・副学長

研究員

氏名所属
中尾 世治特任助教
林  耕次研究員
清水 貴夫研究員
木村 文子研究推進員
本間 咲来研究推進員

主なメンバー

氏名所属
池見 真由札幌国際大学観光学部
伊藤 竜生北海道大学大学院工学研究院
井上  京北海道大学大学院農学研究院
牛島  健北海道立総合研究機構北方建築総合研究所
片岡 良美北海道大学大学院工学研究院
佐野 大輔東北大学大学院工学研究院
鍋島 孝子北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院
原田 英典京都大学大学院地球環境学堂
藤原  拓高知大学教育研究部
LOPEZ ZAVALA, Miguel AngelInstituto Tecnológico y de Estudios Superiores de Monterrey, Mexico
NYAMBE, Imasiku AnayawaUniversity of Zambia
SINTAWARDANI, NeniIndonesian Institute of Sciences (LIPI)
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