実践プログラム1

熱帯泥炭地域社会再生に向けた国際的研究ハブの構築と未来可能性への地域将来像の提案

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研究プロジェクトについて

東南アジアに広く存在した熱帯泥炭湿地林は、1990年代以降、大規模なアカシアやアブラヤシの植栽を目的とする排水により、乾燥化と荒廃化が進みました。その結果、泥炭地では火災が頻発し、煙害による甚大な健康被害と地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出が起こっています。本プロジェクトは、地域の人びとと手を携えながら、パルディカルチュア(再湿地化した泥炭地における農林業)を実践し、乾燥・荒廃化した泥炭地の湿地化と回復をめざします。また環境脆弱社会の変容可能性を明らかにします。

なぜこの研究をするのか

写真1 住民によって建設された小規模木製ダム

写真1 住民によって建設された小規模木製ダム

写真2 泥炭地におけるパルディカルチュアとしてのサゴヤシ栽培

写真2 泥炭地におけるパルディカルチュアとしてのサゴヤシ栽培

熱帯泥炭地では、近年の開発による排水のため、泥炭の有機物分解が進み、大量の二酸化炭素を排出しています。また、乾燥した泥炭地は極めて燃えやすく、毎年乾季には泥炭火災が生じ、農作物に対する被害や煙害による健康被害が深刻化しています。特にインドネシアでは、2015年の7月~11月にかけて、210万ヘクタール(北海道の約4分の1)以上の非常に広範囲な地域で火災が頻発しました。50万人が上気道感染症と診断され、近隣国でも大きな問題になりました。また、火災による膨大な二酸化炭素排出は喫緊に対応すべき環境課題となっています。

私たちの提案である乾燥荒廃泥炭地の湿地化と、泥炭湿地在来樹種の再植は、国際的な泥炭地保全をめざす活動・研究コミュニティにおいて、泥炭地問題の解決策の柱として認識されています。2015年の大規模な泥炭火災を受けて設立されたインドネシア泥炭地回復庁は、5年間で200万ヘクタールの再湿地化と植林をおこなうという目標を定めています。しかしながら、真に泥炭火災と煙害をなくすためには、まだ解決されなければならない問題がたくさんあります。たとえば、広大な国家管理の森林区域に多く存在する乾燥化し劣化した泥炭地を誰がどのように湿地化し植林していくのか、住民や企業が意欲をもって再湿地化をおこないその地で農林漁業をおこなっていくためにはどのような方法が望ましいのか、住民に支持される認証材を含む樹種は何か、さらには、木材の伐採・運搬(運河を使わない方策)、加工、利用、販売についても革新的な解決策を示すことが必要です。このような諸課題について、地元大学、泥炭地回復庁、NGO、さらに多数の国際的な組織と連携しながら解決策を探ることに加え、実際に地元の人びとと手を携えて再湿地化プログラムを実践しています。このため、泥炭地回復庁との間で泥炭地回復のための実践研究に関する覚書を2016年8月にジャカルタで締結し、それに基づく行動計画を策定し、種々のプログラムを開始しています。

たとえば、国家管理地や政府指定の森林地域における住民の土地権を強化し、住民による積極的な荒廃泥炭地の持続的利用を促そうとする社会林業プログラムを推進しています。さらに、泥炭地におけるアブラヤシ栽培をめぐる国際的な論争に積極的に参加することにより、アブラヤシの栽培面積を泥炭地において外延的に拡大するのではなく、オレオケミカル(ヤシ油等から作られる天然油脂。食品、家庭用品および工業用製品などの原材料となる)産業を含むアブラヤシ産業の垂直統合発展とパルディカルチュアによる地域社会の発展を重視することで環境破壊を回避し、産業や地域の経済発展のあるべき方向性を追究しています。

これからやりたいこと

インドネシアのスマトラ島、リアウ州ブンカリス県に位置するタンジュン・ルバン村では、地元のリアウ大学との協働で泥炭湿地在来樹種を植栽し、泥炭地の再湿地化の具体例を示しています。同時に、国家管理地や政府指定の森林地域において住民が積極的に泥炭地回復に取り組むよう住民の土地権を強化するためのプログラムを推進していきます。また、同州メランティ諸島県トゥビン・ティンギ島においてもリアウ大学や現地のNGOとともに泥炭地回復のための社会調査をおこなっていきます。さらに、同州プララワン県においても、現地のNGOや地方行政機関と協力しながら、ドローンを用いた土地利用の実態把握調査を実施し、地域共同体の希望に基づいた泥炭地利用の方策を考える試みを開始しています。その他、インドネシアの中部カリマンタン州やマレーシアのサラワク州においても、天然林・排水林・荒廃地などの異なる環境条件のサイトでの植生や物質循環についての調査を進めていきます。

これまでにわかったこと

写真3 荒廃泥炭地に植林予定の泥炭湿地在来樹種の苗

写真3 荒廃泥炭地に植林予定の泥炭湿地在来樹種の苗

泥炭火災は、本来湿地であった泥炭地が排水によって乾燥し、大変燃えやすくなっていることが根本的な原因であることを明らかにしました。その防止のためには焼き畑農耕を取り締まるのではなく、乾燥した泥炭を湿地化し、湿地化した土地における農業・林業・漁業の生業を発展させることが重要なのです。さらに、乾燥泥炭を生み出す原因となる泥炭地におけるアブラヤシ栽培やアカシア栽培を減らし、泥炭湿地において持続可能な農・林・漁業を展開していく必要があります。他方、これまでの研究から、住民の土地権が強いほど住民は火災にあっても泥炭地を放棄せず、利用と管理を続けることが明らかになりました。土地権が強化された泥炭地において、住民が農林漁業を展開することで、住民の自主的かつ積極的な泥炭地の利用・荒廃泥炭地の回復を促すことが可能になります。加えて、泥炭湿地林が排水され、火災により荒廃していく過程で、泥炭地の炭素循環がどのように変化しているかについても継続して観測をおこなっています。この研究をとおして、特に火災直後において、泥炭地から流出する水を介して、炭素排出が急激に増加することを明らかにしました。

伝えたいこと

インドネシアにおける2015年7~11月の泥炭火災は、地域住民に対する健康被害(火災により50万人が上気道感染症に罹患した)、学業被害(その期間子どもが学校に行けなかった)、交通被害(空港閉鎖など)、農業被害(日照時間不足による稲の登熟不足)などをもたらし、その期間排出された温室効果ガスは、2013年に日本が排出した年間二酸化炭素量を上回りました。このような泥炭火災を防止し、荒廃泥炭湿地を回復するため、私たちはインドネシアの地域社会の人びととの協働による問題解決を図っており、社会林業プログラムを通じ住民土地権の強化など、公正な社会に向けた取り組みをおこなっています。

泥炭湿地にアブラヤシやアカシアが大規模に栽培されたことが泥炭破壊の重要な原因になっています。アブラヤシは日本にも輸出され、チョコレートなどの菓子やマーガリン、洗剤、化粧品といった形で大量に消費されています。またアカシアはティッシュペーパーやコピー用紙の原材料になっています。私たちは泥炭破壊や地球温暖化に影響をもたらさないよう方策を考え、地球規模の問題の解決に向け対応していく必要があります。

本プロジェクトでは、日本で私たち一人ひとりが実践できることも提示していきます。

集合写真

メンバー

プロジェクトリーダー

氏名所属
水野 広祐総合地球環境学研究所教授/京都大学東南アジア地域研究研究所教授

インドネシア経済、特に西ジャワなど農村経済の土地、資本、労働、産業組織の分析をおこなう。インドネシアの民主化以降は、住民組織による資源管理と土地などの制度変化や、労働者の組織化と労使関係制度の変化について取り組む。2008年よりスマトラ・リアウにおける泥炭社会に関する文理融合研究のリーダーとなり、泥炭地回復の実践研究とその地域の歴史的社会的研究、さらにインドネシア経済発展に関する研究を続けている。

サブリーダー

氏名所属
甲山  治京都大学東南アジア地域研究研究所准教授/総合地球環境学研究所客員准教授

研究員

氏名所属
大澤 隆将研究員
梶田 諒介研究員
塩寺さとみ研究員/京都大学東南アジア地域研究研究所連携助教
山中 大学研究員/神戸大学名誉教授/海洋研究開発機構外来研究員
桂  知美研究推進員

主なメンバー

氏名所属
岡本 正明京都大学東南アジア地域研究研究所
伊藤 雅之兵庫県立大学環境人間学部
川崎 昌博総合地球環境学研究所客員教授
嶋村 鉄也愛媛大学農学部
内藤 大輔京都大学東南アジア地域研究研究所
佐藤 百合アジア経済研究所
PAGE, Susanレスター大学地理学部
GUNAWAN, Harisインドネシア政府泥炭地回復庁
SABIHAM, Supiandiボゴール農業大学農学部
SETIADI, Bambangインドネシア政府技術研究応用庁
DHNEY, Tri Wahyu Sampurnoインドネシア政府地理空間情報庁
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