実践プログラム3

持続可能な食の消費と生産を実現するライフワールドの構築

─食農体系の転換にむけて
  • FS1
  • FS2
  • PR
  • FR1
  • FR2
  • FR3
  • FR4
  • FR5

研究プロジェクトについて

環境・経済・社会といった多様な側面から、現代の食と農のシステムについて、持続可能性が問題視されています。本プロジェクトでは食の生産と流通の構造の把握や、食と環境を結ぶアプリやブランドの開発、地域の食の未来を構想するネットワークづくりなどを通して、持続可能な食と農の未来への転換経路を探求しています。調査地は、日本(京都府、秋田県、長野県)、タイ、ブー タン、中国です。

なぜこの研究をするのか

環境の悪化(温室効果ガスの排出、資源の過剰利用、汚染、土壌の劣化)、多様性の喪失(生物、文化、知識)、グローバル市場の拡大と小規模農林水産業の衰退―数々の問題がアジアの食の生産の持続可能性を脅かしています。一方、食の消費側では、食卓を占める加工食品割合が急増し、肥満や生活習慣病の増加を引き起こすほか、グローバルな食品流通システムの過度な発展が市民の力を相対的に弱め、市民レベルでの食の安全保障や自己決定を危うくしています。食べものを分配・消費・管理するしくみを持続可能にするためには、根本的な転換が必要ですが、私たちには転換を促すための知識が欠けています。食農体系の転換はどのように生じ、根付くのか。そのとき制度や政策はどうあるべきなのか。社会的な実践とは、将来の経済的なしくみとはどうあるべきなのか。これらの問いに答える研究が必要です。

どこで何をしているのか

図1:「 食農体系の転換を触媒するためにどんな知識が必要か」という問いに対して、それぞれのワーキング・グループがどのように貢献するかを表した図。4つの知識(①現在のシステムと状況に関する知識、②持続可能な将来のシステムのビジョンに関する知識、③将来のシステムを導くシナリオに関する知識、④介入や転換戦略に関する知識)が示されている。

図1:「 食農体系の転換を触媒するためにどんな知識が必要か」という問いに対して、それぞれのワーキング・グループがどのように貢献するかを表した図。4つの知識(①現在のシステムと状況に関する知識、②持続可能な将来のシステムのビジョンに関する知識、③将来のシステムを導くシナリオに関する知識、④介入や転換戦略に関する知識)が示されている。

本プロジェクトの調査地は日本、タイ、ブータン、中国にあります。食の生産や消費のパターンは地域の社会や文化に深く根差していることから、調査地ごとに食の生産と消費の現状を分析し、転換に向けた道筋を探ります。まず、国・地域・市町村のそれぞれで、地域内での生産・流通・消費の関係性の分析やマッピングを通じて、フードシステムの構造を把握します。そして、調査地の関係者とともにワークショップを実施し、市民と協働で望ましい食と農の未来像を描きます。現代の食と農のシステムは、消費と成長を是とする経済中心主義のもと形成されていますが、本プロジェクトはこれに挑戦し、市民と研究者が共同で持続可能な食のシステムを設計・構築することに取り組みます。重層的かつ開かれた議論を通じて、本プロジェクトは、消費者が改めて自分自身を「市民」そして「食の共同生産者」であると考えられるように働きかけます。このような取り組みを通じて、食の安全保障が長期的かつ市民目線で定義されるように促します。また、食農体系の転換の触媒となることを目指して、本プロジェクトでは以下の4つのタイプの知見の蓄積に取り組みます(図1)。

  1. 1) 
  2. 現代の状況に即した国・地域・市町村のフードシステムに関する知識(食の生産・流通・消費の体系)

  3. 2) 
  4. 共同で生産される新たな食の消費と生産のビジョン、そしてそれを可能にする市町村レベルでの転換の計画や必要な研究・教育・政策の情報

  5. 3) 
  6. 討議や計画の基盤となるモデルやシナリオ

  7. 4) 
  8. 転換を進めるための2種類の介入戦略に必要な知識。ひとつは、ワークショップを通じて合意形成をはかり、食の集合行為を実現するという働きかけに必要な社会的学習のダイナミクス。もうひとつは、フードシステムの変化につながるような、市場の透明性を高める新たな方法(エコラベル、食の影響評価アプリなど)とその意義

これまでにわかったこと

図2: 日本における地域レベルでの食消費フットプリント分析の比較。輸入食品と輸入畜産飼料が最も影響が大きい。他方、全体的にみると地域差が大きいことも明らかである。

図2: 日本における地域レベルでの食消費フットプリント分析の比較。輸入食品と輸入畜産飼料が最も影響が大きい。他方、全体的にみると地域差が大きいことも明らかである。

これまでに、以下のようなことが明らかになりました。

全国47都道府県について、食の消費に関するエコロジカルフットプリント分析を行いました。その結果、畜産飼料や加工食品向け原料として輸入される農畜水産物が、地域のエコロジカルフットプリントに大きな影響を及ぼしていることがわかりました。都市型の都道府県では農村型に比べ、フットプリントが大きくなっています(図2)。そのため、食消費に起因する環境影響を削減するひとつの方法は、都市農業を振興して、地産地消を促進することだと考えられます。しかし残念ながら、京都市を対象とした農地利用変化の調査からは、ここ10 年の間に京都市内の農地(公式・非公式)の10%が消失していることがわかりました。そのうち28%は耕作放棄地となっていますが、京都市は人口減少により縮小傾向にあるにも関わらず40%は住宅として開発されています。このような結果から、持続可能な食の体系を実現するためには、市町村レベルの政策に働きかけることが重要であるとわかります。

写真1: 農家、消費者、NPO、行政などの参加者を得て、ビジョニングワークショップを実施しているところ。2018年2月・京都市(下)、バックキャスティングワークショップの実施結果(上左)、「フード・ポリシー・カウンシル・シミュレーションゲーム」(上右)

写真1: 農家、消費者、NPO、行政などの参加者を得て、ビジョニングワークショップを実施しているところ。2018年2月・京都市(下)、バックキャスティングワークショップの実施結果(上左)、「フード・ポリシー・カウンシル・シミュレーションゲーム」(上右)

昨年、日本全国の4つの調査地においてビジョニング、バックキャスティング、ロールプレイング、ゲーミングなどの多様な手法を用いて6回のワークショップ(京都市:3回、亀岡市:1回、長野市:1回、秋田市:1回)を行いました(写真1)。地域の食の政策や、参加者が緊急かつ行動しうると考える具体的な問題(田舎の未来、将来の学校給食など)をテーマとし、地域で関連した活動を行う市民の方や自治体職員などの参加を得ました。得られた結果は、今後、地域の将来シナリオや政策提言をとりまとめる際に反映していきます。

写真2: インフォーマルな食の活動に関する調査。都市養蜂家に対するフィールドワーク(上左)、「みつばちに優しいまちづくり」セミナーの開催(下)

写真2: インフォーマルな食の活動に関する調査。都市養蜂家に対するフィールドワーク(上左)、「みつばちに優しいまちづくり」セミナーの開催(下)

また、インフォーマルな食の活動についての調査にも取り組んでいます。具体的には、家庭菜園、種子交換、都市における野生の食べもの採集、山菜きのこ採りなどの活動に着目しています。このような活動が、インフォーマルな(一般的でない、私的な)食の世界の形成にどのように寄与しているか、また豊かで持続可能な生活にどのように関連しているかといった点が、私たちの主たる関心です。また、都市養蜂に関する調査からは、一般市民の環境に対する関心や養蜂への理解の低さが、市街地で養蜂を行う際の大きな障害となっていることがわかりました(写真2)。

写真3: ブータンにおけるフィールドワーク(村落、市場、世帯など)

写真3: ブータンにおけるフィールドワーク(村落、市場、世帯など)

ブータンは、アジアにおける持続的な発展の先駆者ですが、同国の3箇所の農村地域で集約的なインタビュー調査を行った結果、農場における実践と食の消費パターンの双方において、さまざまな変化が生じていることが明らかとなりました。都市地域での追加調査を現在実施中です。これらの調査結果から、ブータンにて持続可能な食体系が将来的にどのように形成されていくかを明らかにしたいと考えています。

プロジェクトの遂行にあたり、各地の研究機関や自治体と連携協定を締結してきました。カリフォルニア大学バークレー校、ブータン王立大学自然資源大学、マヒドン大学社会科学・人文学部、上海市農業科学院生態環境保全研究所、亀岡市、能代市などに加え、ユトレヒト大学(持続可能な発展に関するコペルニクス研究所)とも協定を締結しました。

伝えたいこと

食と農はこれまで、個別の問題として論じられてきました。しかし現代において、生産から後の食の領域はますます肥大しており、食を切り離しては農の再生を考えることができません。

食はすべての人に関わる身近な問題でありながら、世界規模での環境、社会、経済問題とも密接にかかわっています。食を考えることを通じて、未来の地域のあり方を考えてみませんか。

特筆すべき事項

全国47都道府県にて食の消費に関するエコロジカルフットプリント分析を実施したほか、買い物の際に消費者がその商品の環境負荷などついて情報を得ることのできるアプリ開発やエコラベル開発を進めています。また、京都市、亀岡市、長野市にて食と農の未来会議(日本版フードポリシー・カウンシル)設立に向け準備中です。

インフォーマルな食の活動についての調査を拡充しており、家庭菜園、種子交換、都市の食べもの採集、山菜きのこ採り、都市養蜂などの活動に着目し「informal food system」や「wild food basket」などの新たな概念構築に取り組んでいます。

集合写真

メンバー

プロジェクトリーダー

氏名所属
MCGREEVY, Steven R.総合地球環境学研究所准教授

京都大学農学博士。専門分野は農業、持続可能な農村開発、環境教育。地域の自然資源を活用した地方創生、持続可能性の知識ダイナミクス、持続可能な食農およびエネルギー体系への転換などに向けた新しい取り組みや、地域社会における食の消費と生産の連携について研究をしています。

サブリーダー

氏名 所属
田村 典江総合地球環境学研究所上級研究員

研究員

氏名所属
RUPPRECHT, Christoph D. D.上級研究員
太田 和彦研究員
小林  舞研究員
SPIEGELBERG, Maximilian研究員
真貝 理香研究員
小田 龍聖研究員
松岡 祐子研究推進員
小林 優子研究推進員

主なメンバー

氏名所属
土屋 一彬東京大学大学院農学生命科学研究科
原  祐二和歌山大学システム工学部
秋津 元輝京都大学大学院農学研究科
立川 雅司名古屋大学環境学研究科
谷口 吉光秋田県立大学生物資源科学部生物資源環境科
中村 麻理名古屋文理大学健康生活学部フードビジネス学科
TANAKA KeikoUniversity of Kentucky, USA
須藤 重人国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
柴田  晃立命館大学OIC総合研究機構
岸本 文紅国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
  1. HOME
  2. 研究プロジェクト
  3. 研究プロジェクト一覧
  4. フルリサーチ・プレリサーチ
  5. 持続可能な食の消費と生産を実現するライフワールドの構築
↑ページトップへ
大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
総合地球環境学研究所

〒603-8047 京都市北区上賀茂本山457番地4

Tel.075-707-2100 (代表)  Fax.075-707-2106 (代表)

みんながわかるちきゅうけん